「既存の工場で生産が追いつかない」介護用品の製品化が、あと一歩で破談になった理由【OEM工場の本音】

はじめに

「現在お願いしている縫製工場では生産能力(キャパシティ)が限界で、納期に間に合わない」

「販売が好調なので、代わりに作ってくれる新しい国内工場を探している」

自社製品の売れ行きが好調な企業の商品企画担当者様や経営者様から、このような「工場乗り換え」や「セカンドソース(第二の製造拠点)の確保」に関するご相談をいただく機会が増えています。

しかし、一見すると「既存の製品と同じものを作ればいいだけ」と思われがちな工場の移行ですが、実は大きな落とし穴が存在します。

今回は、実際にあった介護用品の生産移行のご相談において、なぜプロジェクトが破談(断念)に至ってしまったのか、その実例をもとに縫製OEM工場の視点から解説します。

製品の増産や工場の切り替えを検討されている企画担当者様・経営者様は、ぜひ参考にしてみてください。

現場で起きた実例:介護用品の増産相談

ご相談いただいたのは、すでに市場で販売されており、ユーザーからの評価も高い介護用品でした。

売れ行きに対して従来の縫製工場の生産ラインが追いつかなくなってしまったため、「同じ製品を増産できないか」というお問い合わせです。

需要が高まっている素晴らしい製品であり、私たちもぜひ力になりたいとお話を進めていたのですが、仕様の確認と準備段階に入ったところで、決定的な問題が発覚しました。

問題点:従来の工場に「型紙」が存在しなかった

新しい工場で製品を正確に再現・生産するためには、当然ながら設計図となる「型紙(パターン)」が必要です。

しかし、発注者様を通じて確認したところ、なんと従来の工場には正確な型紙が存在しておらず、職人さんの感性や現物合わせの手作業で縫製されていたことが判明したのです。

さらに、既存の製品(サンプル)を解体して当社で型紙を起こそうと試みましたが、元々の裁断や縫製があまりにも不揃い(縫い代の幅がバラバラ、裁断の歪みなど)で、どれが「正しい正解の寸法」なのかが分からない状態でした。

当社から「抜き型(プレス裁断用の金型)」の作成や、耐久性・品質を担保するための縫製仕様の再設計をご提案しましたが、最終的に発注者様側でのご判断により、このプロジェクトは形にならず流れてしまう(破談となる)結果となりました。

なぜ「既存製品のそのままコピー」はうまくいかないのか?

「実物があるんだから、解体して同じように縫えば作れるでしょう?」と考えられる方は少なくありません。しかし、プロの縫製工場から見ると、ここには生産方式と品質基準の大きな相違が存在します。

1. 手動裁断と「抜き型(プレス機裁断)」の違い

小規模な工場や職人主体の現場では、型紙を生地に当ててハサミや手動カッターで裁断することがあります。この方法は柔軟性が高い反面、どうしても数ミリ単位の誤差や裁断の歪みが生じます。

一方、当社のような資材・袋物中心の縫製工場では、「抜き型」を用いてプレス機で一気に生地を切り出します。

  • 抜き型裁断のメリット: 全く同じ形状のパーツを大量に、ズレなく正確に裁断できる(高い品質安定性)。
  • 必要な準備: 正確なデータや型紙をもとに「抜き型」を初期製作する必要がある。(別途型代が発生する)

正確な型紙がない状態では、この「抜き型」を作ることができず、結果として高品質な量産体制を組むことができません。

2. 「杜撰な縫製仕様」をそのまま再現するリスク

従来の工場で「とにかく形になればいい」という大雑把な縫製がされていた場合、それをそのままコピーして作ることは、プロの工場として非常に危険です。

特に介護用品やアウトドアギア、キッズ用品などは、人の安全や製品の耐久性に直結します。

  • 縫い代が浅すぎて、荷重がかかると生地が引き裂ける
  • 補強縫い(バータック等)が入っておらず、繰り返し洗濯に耐えられない

こうした場合、当社では必ず「強度を保つための縫製仕様の変更(改善提案)」を行いますが、発注者様が「前と全く同じでいいから安く早く作ってほしい」というスタンスの場合、品質に対する認識のズレが生じてしまいます。

工場乗り換え・増産を成功させるための3つのポイント

もし、現在の工場から別の工場へ生産を移行したい、あるいはセカンドソースを探したいとお考えの場合は、以下の3点に注意して進めることを強くおすすめします。

① 既存工場から「型紙データ」を必ず回収する

生産を依頼する際は、製品の現物だけでなく、必ず「正規の型紙データ」を発注者様側で保有・管理しておくことが重要です。工場に型紙作成を丸投げしていると、いざ工場を変えたいと思った時に移行ができなくなってしまいます。

② 工場が変わる時は「仕様の再設計(アップデート)」が必要だと捉える

設備やミシン、裁断方法が違えば、得意とする縫い方も変わります。

「前の工場と寸分たがわず同じ手順で作る」ことではなく、「新工場の強み(抜き型裁断やコンピューターミシンなど)を活かして、より品質の良い製品にアップデートする」という意識を持つことが成功の近道です。

③ 「試作と改善提案」のプロセスを惜しまない

いくら既存品があっても、新しい工場で本生産に入る前には、必ず「新仕様での試作」と「強度・寸法の検証」が必要です。この工程を省いて無理に量産へ進むと、万が一の不良品発生時に甚大な損害が出てしまいます。

まとめ:正しい準備が、確実な生産体制を作る

「工場に生産能力がないから、別の工場へ持っていけばすぐ解決する」と考えてしまいがちですが、実際には型紙の有無や生産方式の違いという大きなハードルが存在します。

今回ご紹介した介護用品のケースのように、型紙がない・仕様が不透明なままでは、どれだけ素晴らしいアイデアや需要があっても、新しい工場で製品を再現することはできません。

株式会社いいづかでは、製品の耐久性や品質を最優先に考え、正確な抜き型裁断や改善提案を含めた「長く売れ続けるためのものづくり」をご提案しています。

既存の製品をベースに、より品質を安定させて国内で増産していきたいとお考えの企業担当者様は、ぜひ型紙や仕様の確認も含めてご相談ください。

縫製工場のプレス機で抜き型を使い生地を正確に裁断する様子